二十四節気・七十二候について

二十四節気・七十二候とは

山文路意匠室|和風デザイン様)


日本には、古くから自然の移ろいを細やかに感じ取り、暮らしに取り入れてきた豊かな文化があります。その代表が「二十四節気」と「七十二候」です。これらは、太陽の動きを基に1年を細かく区切り、それぞれの時期の自然現象や生き物の様子を言葉で表現した、いわば「季節の暦」です。


二十四節気

一年を24に分ける太陽の暦
二十四節気は、1年を24等分し、それぞれに季節の特徴を表す名前をつけたものです。太陽の黄道上の位置によって決められ、約15日間隔で区切られています。


節気 時期 説明
立春 2月4日頃 春の始まり
春分 3月21日頃 昼と夜の長さがほぼ同じになる日
清明 4月5日頃 清々しい気候で、草木が芽吹き始める頃
立夏 5月6日頃 夏の始まり
夏至 6月21日頃 一年で最も昼が長い日
立秋 8月8日頃 秋の始まり
秋分 9月23日頃 昼と夜の長さがほぼ同じになる日
立冬 11月7日頃 冬の始まり
冬至 12月22日頃 一年で最も昼が短い日


七十二候

さらに細やかな季節の表情
七十二候は、この二十四節気をさらに約5日ごとの3つに分けたもので、1年を72の小さな季節に区切ります。それぞれの候には、その時期に起こる動植物や気象の変化を短い言葉で表現した名前がつけられています。


節気 七十二候 読み方 説明
立春 初候 東風解凍 はるかぜこおりとける 春風が吹き、氷が解け始める
次候 黄鶯睍睆 うぐいすなく ウグイスが鳴き始める
末候 魚上氷 うおこおりをいずる 解けた氷の下から魚が姿を見せる
清明 初候 玄鳥至 つばめきたる ツバメが南からやってくる
次候 鴻雁北 こうがんきたへかえる ガンが北へ帰っていく
末候 虹始見 にじはじめてあらわる 雨上がりに虹が出始める
立秋 初候 涼風至 すずかぜいたる 涼しい風が吹き始める
次候 寒蝉鳴 ひぐらしなく ヒグラシが鳴き始める
末候 蒙霧升降 ふかききりまとう 深い霧が立ち込める

現代における意義と活用

季節感の醸成

現代の都市生活では季節の変化を感じにくくなっていますが、二十四節気・七十二候を意識することで、微細な季節の移ろいに気づくことができます。


文化的価値

二十四節気・七十二候は、単なる暦としてだけでなく、日本の様々な伝統文化や芸術、生活習慣に深く影響を与え、その基盤となっています。


俳句・短歌

季節を表す「季語」は、二十四節気や七十二候が示す自然現象や風物詩に由来し、作品に不可欠な要素です。


季語 候・節気 意味・現象 使用例
春一番 立春の頃 立春後に初めて吹く強い南風 春一番今年も君を思い出す
冬から春への季節の変わり目 春一番 冬枯れの野に 緑の兆し
蝉時雨 大暑の頃 多数の蝉が一斉に鳴く様子 蝉時雨昼寝の夢を破りけり
鳴き声が雨音のように聞こえる 蝉時雨寺の静寂を包みけり
関連季語
東風 立春初候「東風解凍」 春を運ぶ東からの風 東風吹いて氷の池に波立ちぬ
虹立つ 清明末候「虹始見」 雨上がりに現れる虹 虹の橋かかりて里の夕まぐれ
涼風 立秋初候「涼風至」 秋の訪れを告げる涼しい風 涼風に誘われ歩く夕べかな


(番外編)

俳句の部

季語 俳句 作者・出典 意味・ポイント
雲雀 雲雀より 空に休みあり けふの月 松尾芭蕉 いつも忙しく鳴く雲雀より、空の方が暇そうだという逆転の発想
うるさしと いへど涼しき 蝉の声 正岡子規(『子規句集』) うるさいと文句を言いながらも、実は涼しさを感じている矛盾した心境
夕立 夕立や 田を見に行って 田になり 小林一茶 夕立で田んぼを見に行ったら、自分もずぶ濡れで田んぼ状態になった
雪とけて 村いっぱいの 子どもかな 与謝蕪村 雪解け水ではなく、子供たちが溢れたという視点転換

短歌の部

季語 短歌 作者・出典 意味・ポイント
花火 花火見て きれいと言いつ 首痛し 空を見上げる 角度きつくて 穂村弘風(平成期) 花火を見上げて首が痛くなった。美しいものを見る代償としての身体的苦痛
月見れば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど 大江千里(『古今和歌集』) 月を見ると悲しくなるが、それは自分だけの秋ではないという慰め。感傷の普遍性
鈴虫 鈴虫の 声美しと 買い求め 夜中にりんりん 眠れざりけり 『風流の代償短歌』平安中期 鈴虫の美声に憧れて飼ったら睡眠不足になった風流心の裏目を詠んだ歌
柿の木に 登りて実を 取らんとす 降りられなくて 消防車呼ぶ 『子供時代失敗談』江戸中期 柿取りで木から降りられなくなった子供を表現した歌


茶道

季節の節目や自然の変化を意識し、茶室のしつらえや道具選びに細やかに反映されます。


道具の選択

季節 具体例 効果・意味
桜模様の茶碗、若草色の帛紗 季節の喜びを表現
涼しげなガラスの茶碗、竹の茶杓、麻の帛紗 視覚的涼感、暑さを和らげる
紅葉柄の茶器、渋い色合いの道具 秋の深まりを演出
温かみのある陶器の茶碗、漆器、厚手の帛紗 保温効果、心の温もり


華道

季節の花材と自然の摂理を表現し、生命の美しさと無常観を込めた芸術です。


花材の選択

季節 季語・植物 意味・ポイント
桜、梅、菜の花、水仙 生命力の表現、希望
向日葵、朝顔、百合、青竹 力強さ、清涼感
菊、楓、ススキ、柿の枝 風情、侘寂の美
椿、南天、松、水仙 静寂の美、来春への願い


料理

「旬」の概念と深く結びつき、その時期に最も美味しい食材が料理に取り入れられます。


七十二候 候・節気 テーマ 料理例 旬の理由・背景
魚上氷 立春末候 氷が解けて魚が活動し始める時期の川魚料理 鮎の塩焼き、川魚の煮付け、渓流魚の刺身 水温上昇で魚の活動が活発化、身が引き締まる
若鮎の天ぷら、川魚の甘露煮 春の川魚は臭みが少なく上品な味
蚕起食桑 小満次候 桑の葉が茂る時期の山菜料理 桑の葉天ぷら、山菜の胡麻和え 新芽の柔らかさと栄養価が最高潮
蕨の煮物、筍の木の芽焼き 冬の栄養を蓄えた山菜が一斉に芽吹く
たらの芽の天ぷら、こごみのお浸し 「山菜の王様」と呼ばれる最盛期
雁来 寒露初候 渡り鳥が来る時期の秋の味覚 鴨鍋、雁の照り焼き、鳥の水炊き 長距離飛行で身が引き締まり脂がのる
秋刀魚の塩焼き、栗ご飯、柿の白和え 産卵前の栄養蓄積で最も美味しい時期
松茸の土瓶蒸し、銀杏の茶碗蒸し 気温と湿度の条件が揃った短期間のみ
霜始降 霜降初候 初霜が降りる頃の根菜料理 大根おろし、蕪の千枚漬 寒さで糖度が上がり、みずみずしさが増す
里芋の煮っころがし、人参のグラッセ 地中で寒さに耐えて甘味を蓄積
水始氷 小雪初候 水が凍り始める頃の保存食 白菜漬け、大根の沢庵漬け 気温低下で発酵がゆっくり進み深い味に
鱈の鍋物、鰤の照り焼き 産卵期前で最も脂がのり身が締まる


和菓子

和菓子職人は七十二候を参考に、季節の移ろいを表現した菓子を創作します。


項目 内容 具体例
練り切り 候名をモチーフにしたデザイン
桜始開 淡いピンクの練り切りに桜の花びらを表現
紅葉蔦黄 赤・黄・橙のグラデーションで紅葉を表現
東風解凍 白から薄青へのぼかしで氷の解ける様子
玄鳥至 黒い練り切りでツバメのシルエット
虹始見 七色のストライプ模様
涼風至 薄緑と白で風の涼しさを表現
寒蝉鳴 茶色ベースにヒグラシの音を波模様で
季節の先取り 次の候を意識した工夫
色合いの工夫 現在より少し先の季節色を取り入れる
形状の工夫 次の候の自然現象を暗示する形
素材感 季節の移ろいを表現する質感の変化


年中行事

多くの伝統的な年中行事は、二十四節気を基準に定められ、季節の節目に自然の恵みに感謝します。


季節 節気 時期 代表的行事 備考
立春 2月4日頃 節分(豆まき) 季節の変わり目
雨水 2月19日頃 雛人形飾り 雛祭り準備
啓蟄 3月6日頃 雛祭り(桃の節句 五節句の一つ
春分 3月21日頃 春彼岸、花見 昼夜等長
清明 4月5日頃 入学式、花祭り 桜の季節
穀雨 4月20日 八十八夜 茶摘みの季節
立夏 5月5日頃 端午の節句(こどもの日) 五節句の一つ
小満 5月21日頃 三社祭 初夏の祭り
芒種 6月6日頃 衣替え 夏服への切り替え
夏至 6月21日頃 夏越の祓 一年で最も昼が長い
小暑 7月7日頃 七夕 五節句の一つ
大暑 7月23日頃 土用丑の日、お盆 最も暑い時期
立秋 8月8日頃 お盆、盆踊り 暦の上では秋
処暑 8月23日頃 地蔵盆 暑さが和らぐ
白露 9月8日頃 重陽節句(菊の節句 五節句の一つ
秋分 9月23日頃 秋彼岸、十五夜 昼夜等長
寒露 10月8日頃 体育の日、菊祭り 運動会シーズン
霜降 10月23日頃 秋祭り 収穫祭
立冬 11月7日頃 七五三 子どもの成長祈願
小雪 11月22日頃 新嘗祭 収穫感謝
大雪 12月7日頃 正月事始め 年末準備開始
冬至 12月22日頃 冬至(柚子湯) 一年で最も昼が短い
小寒 1月5日頃 七草粥、鏡開き 人日の節句
大寒 1月20日 寒中見舞い 最も寒い時期


健康管理への応用

東洋医学では、季節の変化に合わせた養生法が重視されており、二十四節気は健康管理の指標としても活用されています。


季節別養生法

季節 対応臓腑 体調特徴 養生法 注意症状
肝・胆 ・気血巡り活発
・情緒不安定
・酸味控えめ
・早寝早起き
・軽い運動
・イライラ
・目の充血
・頭痛
心・小腸 ・心火亢進
・発汗過多
・苦味摂取
・昼寝
・水分補給
・動悸
・不眠
熱中症
肺・大腸 ・乾燥しやすい
・気の下降重要
・辛味+酸味
・保湿対策
・深呼吸
・咳
・皮膚乾燥
・便秘
腎・膀胱 ・生命力貯蔵期
・腎陽不足
・塩味適量
・温食
・早寝遅起き
・腰痛
・頻尿
冷え性


二十四節気別健康管理

節気 おすすめ食材 生活のポイント 理由
立春
2月4日頃
菜の花、たけのこ、セロリ 早起きして朝日を浴びる 肝気が上昇し始める時期。苦味で肝火を抑え、陽気を養う
雨水
2月19日頃
山芋、はと麦、小豆 除湿を心がける 湿気が増え脾胃が弱りやすい。利水作用のある食材で湿邪を排出
啓蟄
3月6日頃
しそ、生姜、ねぎ 花粉対策を始める 陽気の発散で花粉症が悪化。辛味で発散し、抗アレルギー作用を活用
春分
3月21日頃
春キャベツ、あさり、いちご 規則正しい生活リズム 昼夜平分で自律神経が乱れやすい。甘酸っぱい食材で肝を養う
清明
4月5日頃
たらの芽、ふき、緑茶 散歩など軽い運動 肝火が上がりやすい時期。苦味で清熱し、運動で気血を巡らせる
穀雨
4月20日
そら豆、グリーンピース 適度な発汗を促す 湿邪の影響を受けやすい。豆類で脾を健やかにし、発汗で湿を排出
立夏
5月5日頃
トマト、きゅうり、苦瓜 薄着への移行を慎重に 心火が盛んになり始める。涼性食材で熱を冷まし、急激な温度変化を避ける
小満
5月21日頃
緑豆、冬瓜、すいか 水分補給を意識 暑邪の影響が始まる。清熱利水作用で体内の熱と湿を排出
芒種
6月6日頃
とうもろこし、枝豆 消化の良い食事 湿熱で食欲不振になりやすい。甘味で脾胃を補い、消化負担を軽減
夏至
6月21日頃
きゅうり、トマト、みょうが 涼しい時間帯に活動 心火が最も盛んな時期。涼性食材で清熱し、陽気の消耗を防ぐ
小暑
7月7日頃
ゴーヤ、なす、オクラ エアコンの使いすぎ注意 暑邪で気力消耗。苦味で心火を鎮め、急激な温度差で陽気を損なわない
大暑
7月23日頃
すいか、緑豆、蓮の実 冷たいものの摂りすぎ注意 暑邪が最も強い時期。清熱解毒作用で体を冷やすが、脾胃を冷やしすぎない
立秋
8月8日頃
梨、白きくらげ、百合根 朝晩の温度差に注意
エアコンによる乾燥対策
肺が乾燥し始める。白色食材で肺を潤し、温度変化による風邪を予防
処暑
8月23日頃
大根、れんこん、柿 首元を温める 秋燥の影響開始。潤燥作用で肺を保護し、首から風邪が入るのを防ぐ
白露
9月8日頃
銀杏、栗、さつまいも 薄着に注意 風邪をひきやすい時期。収斂作用で気を固め、保温で陽気を守る
秋分
9月23日頃
白ごま、松の実、杏仁 乾燥対策を始める 肺気が弱りやすい。油脂類で肺を潤し、乾燥から呼吸器を守る
寒露
10月8日頃
柿、りんご、蜂蜜 加湿器の使用開始 燥邪で咳が出やすい。甘潤な食材で肺を養い、環境の湿度を保つ
霜降
10月23日頃
かぼちゃ、里芋、ごぼう 三つの首を保温 寒邪の影響開始。温性食材で陽気を補い、首・手首・足首を保温
立冬
11月7日頃
黒豆、黒ごま、くるみ 腰回りの保温 腎気が弱り始める。黒色食材で腎を補い、腎の府である腰を温める
小雪
11月22日頃
羊肉、生姜、にんにく 早寝を心がける 陽気が不足し始める。温熱食材で陽気を補い、早寝で陽気を温存
大雪
12月7日頃
大根、白菜、みかん 関節を冷やさない 寒邪で関節痛が起こりやすい。温める食材と保温で寒邪の侵入を防ぐ
冬至
12月22日頃
かぼちゃ、小豆、柚子 足湯で下半身を温める 陽気が最も弱い時期。温補食材で陽気を養い、下半身から温めて腎を助ける
小寒
1月5日頃
七草、餅、温かいスープ 無理な運動は避ける 寒邪が最も強い時期。消化の良い温かい食事で脾胃を労わり、陽気を温存
大寒
1月20日
黒豆、くるみ、羊肉 腰回りの保温を重視 腎陽が最も不足する時期。補腎食材で生命力を養い、腎の府を徹底的に保温


東洋医学と西洋医学の違いとメリット

東洋医学は「未病を防ぐ」予防医学的視点で、季節の変化に合わせて体調を整える「先手必勝」のアプローチです。二十四節気という細かな季節区分で、体の変化を先読みして対応します。

  • 体質改善による根本的な健康維持
  • 副作用の少ない自然な調整法
  • 個人の体質に合わせたオーダーメイド養生
  • 日常生活に取り入れやすい実践的な知恵

西洋医学は症状が現れてから対処する「対症療法」が中心で、科学的根拠に基づいた治療法が特徴です。

  • 即効性のある治療効果
  • 客観的データに基づく診断
  • 重篤な疾患への確実な対応
  • 標準化された治療法

慢性的な疲れや「なんとなく不調」には東洋医学、急な体調不良や明確な症状には西洋医学を活用するとよいでしょう。 実践では完璧を目指さず、旬の食材を意識することから始めてみてはいかがでしょうか。自分の体と対話するように、日々の調子の変化を意識的に感じ取る練習が必要です。

あとがき

二十四節気や七十二候は、時間に追われる現代の暮らしに「季節を感じる余白」を静かに提示してくれます。通勤路のアスファルトの隙間から顔を出す雑草にも、夕立の後の蝉の声の高まりにも、自然のサインは確かに息づいています。

季節はカレンダー上の区分ではなく、五感で捉えるべき「体感の風景」。冷房の効いた室内にいながら、窓ガラスに映る雲の流れに「秋の気配」を見出す瞬間。そんなささやかな気付きの積み重ねが、自然と共に生きる感覚を私たちに再発見させてくれるのではないでしょうか。

リンク集

公的機関・学術機関

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